300字小説
故郷
青い空に細い雲がたなびく。
紅葉した木々の向こう、煌めきながら揺れるススキの穂の上を、もう地球では見られないという赤トンボがつうと飛んでいく。
古風な家の庭の木の葉陰から覗くオレンジ色の柿の実。それをもぎ取る歓声が秋の里に響く。
やがて、日が傾き、空が赤から藍に染まっていく。
終わりを告げるような秋風が吹き、シルエットになった山裾に夕陽が沈んでいく。
プログラムが終了し、一人、また一人と名残惜しげにVRグラスを外して、人々が惑星開拓基地の部所へと戻っていく。
半円形のドームの向こうは、灰色の岩と土、点在する重機。
いつか、この地がVRで見た、情緒あふれる故郷になることを願って、彼等はまた開拓作業に勤しむ。
お題「秋風」
11/14/2023, 12:19:26 PM