美坂イリス

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山吹色に染まる街。私は、高台にある公園からそれを眺めていた。

今年は気温が高めとはいえ、一月の、ましてや夜明け直後の風は冷たい。よかった、使い捨てカイロも持ってきておいて。
「『見るべきものは見つ』、ってとこかな」
昨夜がりごりノートに書き込んでいた言葉が口をつく。まあ。
「討ち果たされるときなんだよねぇ……。この言葉」
一つ、ため息をつきながらそう呟く。源平の合戦、壇ノ浦。平知盛の言葉が、何故か私にはすとん、と胸に収まってしまった。
「じゃあ、帰ろうか」
踵を返して、家へ。伸びる影を見ながら、私は願う。

いつか、私がこの言葉を本当に口にしないことを。

1/3/2024, 12:09:20 PM