「紅の記憶」
夕暮れの茜色。
どうしてあんなに強烈なのだろう。
いつだったか、クロと散歩に行った公園。
見ているものを魅了する。
イチョウの、燃えるような赤と黄色。
クロは黒い。
だから、「紅」の強さが際立つ。
立ち止まり、空を見た。
クロがわたしの足に鼻先をこすりつける。
───早く行こうよ。
彼の世界に、「赤」はただの景色だ。
感傷も郷愁もない。
その潔さが、私は好きだ。
私の中の「紅」の記憶たち。
鮮やかだで、でも、もう触れられない。
過去の熱い恋。決別。そういうもの。
クロは「今」しか見ていない。
彼と一緒にいると、
外の条件に左右されない幸福を、
見つけられる気がする。
今、クロの耳が、パッと何かを捉えた。
遠くの音。
彼は走り出した。
ただ、まっすぐに。
私も行くよ、クロ。
11/22/2025, 2:27:22 PM