わをん

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『愛があればなんでもできる?』

愛とはなんだろう。牢屋に入れられいつ始まるかわからない処刑を待ちながらいつしかそんなことを考えていた。
私がここに入るに至ったのは在籍する学園でちやほやされていた転校生の聖女とやらに執拗な嫌がらせをしていたため。女は私の知らないところで同級生であった王太子の伴侶となっており、そのために私のしでかしたことが明るみになったとき、罪の重さは王族への謀反と同等となった。
私は王太子のことを愛していたし、愛していると返されたこともある。
「愛する君のためならなんだってできるよ」
かつて胸を焦がした言葉は今や寒々しいばかり。同じ言葉をあの女にも投げかけていると思うともはややるせなさしか沸いてこなかった。
「ここから出たいか?」
誰もいないはずの牢屋の隅からぼんやりとした人影に声を掛けられる。幻覚が見えてきたのだろう。
「ええ、出られる手筈があるのなら」
「お前が私を愛してくれるなら、そのようにしてみせよう」
“愛する君のためならなんだってできるよ”
言葉は違えど同じことを言われている。おかしな幻覚もあったものだ。
「わたくし、愛は幻だと一度は知った身ですの。傷ものでよろしければ、口づけをどうぞ」
影に近づき抱擁と口づけを交わす。すると人影はみるみると影を濃くして声を上げた。どうやら歓喜の叫びのようだった。次の瞬間、人の手ではありえない力で牢屋の格子がくにゃりと曲がった。驚いた私の手を影であったその人は手に取り尋ねた。
「望み願い給え、愛する人」
それまで死を待つだけだった身に降って湧いた人ならぬ力は野望を抱かせるには充分過ぎるほどだった。
「愛するお方。この国を滅ぼしましょう」

5/17/2024, 6:15:14 AM