君からのLINEが届いた時、私は人を殺している途中だった。
文章にすれば驚くものを書いているかもしれない。
しかし事実だ。
さして物騒なものではない。
ファンタジーのように残忍の夜の帳が下りた世界観ではない。
それとはスケールが違う。かなり小さいものだ。
魔王なんていない。勇者なんていない。皆殺しにあう村人などはいない。しかしそれでも人は死ぬ。
何も知らない人によっては、人を殺していると捉えられるだけで、当事者の女たちと私との間では、命が宿る袋の中を淡々と掃除しているだけ、という認識でいる。
金を支払えば私はこれをする。
そうでなければ、目の前の患者はいずれ精神的鬱で、母子ともに死んでしまうだろう。
いわゆる医者という、職業をしている。
産婦人科医。
しかし、経産婦のような命を出迎える、ありがたい光景を生業としているのではなく、薬物を使って計画殺人に加担している、ようなものだ。
それは産みたくないという女性の意志を尊重していると、私が思っているため。
それの名前は特になく、単なる子宮内容物であり。
命なんていうものは、人間たちの思い込み。それを単純に感じる日々。
まだ腹は膨れていない彼女に麻酔薬を吸わせた。
股を開かせ、金属状のくちばしで入口付近を無理やり開く。
無理やりやられて出来てしまったから、というのが本日の来院理由。よくある理由だ。
開いて覗いた。
好きでもない人の、粘膜色を覗き込む作業に、劣情を催すほどの若い年齢でもなくなった。
医療用の吸引器のスイッチを入れた。
風の音の吸い込みとともに、冷たいはずの機械を滑らせて、ものの一分二分で終わってしまった。
その時刻に、君からのLINEがあったのを知った。
「やっと妊娠したみたい」
そう書いてあって、既読をつけてしまったことに後悔している夜9時。
9/16/2024, 9:20:04 AM