桜井呪理

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私は今日も、ひとりぼっち。

もうここに来てからは、人とも喋ってもいない。

ただ毎日、本を読む。

今のところ、その繰り返しが続いている。

そんな私に、私より2つくらい上であろう男の子が話しかけてきた。

きみもこの本好きなの?

そう言われて、驚いた。

この本を好きな人なんて、私以外いないと思っていたから。

思わず綻びそうになった顔を必死で隠したけれど、もう遅かった。

あはは、笑ってる。
で、この本のどんなところが好きなの?

ずるい。
そんな風にに聞かれたら、もう話したい気持ちが抑えられない。

その日私は、少年と夜がふけるまで話し込んでしまった。

そんな日がしばらく続いていったある日、少年から話があると言われた。

いつもの場所に行くと、小さな花束を抱えた彼が立っていた。

いつも通り話しかけると、少年が凛とした声で言い放った。

ずっと話しているうちに、きみのことが大好きになっちゃったんだ。
愛してる。
彼岸まで一緒に行こう。

愛してる。

ろくでもない彼氏に捨てられて自殺した私にとって、何よりの言葉だった。

私も彼が好きだ。

でも、それよりも先に、出てきた言葉があった。

きみも死んでるの?

とにかくそれに驚いた。

すると少年は、

僕はね、ある事故で死んじゃったんだ。
でも、きみに会って、どうしようもなかったこの死を受け入れられた。
彼岸でしか愛することは出来ないけど、受け止めきれないほどの愛をあげる。
だからこの気持ち、受けとってくれる?

こんなこと言われて、言うことはただ一つ。

喜んで。

彼岸行きの道を歩みながら、私たちは、同じ本を持った手を、そっと繋いで、微笑みあった。

6/15/2024, 12:53:06 PM