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誰もがしがらみの中に生きている。
生まれと育ちがあれば、それは一生当人に付随する呪いだ。
しかしそれは、そこに生きていればこその話だ。

女子中学生、少女二人。彼女たちは自分たちの地元である島のテトラポットに居た。海水漬けローファーを、日射が白色に照らしている。
彼女たちにとって「死にたい」は流行病のようなもので、希死念慮は普遍的に誰もが持ち合わせている社会の理だった。
「しがらみから逃れるには死ぬしか無いんだよ」
「うーん」
「きっとそれは最終手段じゃなくて、他の選択肢があっても選んでしまうほど合理的で……」
そこで少女は口をつぐむ。コスパ、タイパにおいての最適解は無論それだが、もうひとりの少女は逆説から言葉を紡ぎ始める。
「でも、この街で死んで、新しい街でやり直す方が楽しそう」
「……引っ越し的な?」
「それじゃあまた育ちのしがらみが増えるだけだよ」
私達を知らない場所で、私達が知らない場所で、何にも属することなく好きなことだけして暮らすの。
「……お前、ばかだなあ」

翌日、少女二人は自信の通帳を持ち寄って、学校行きの船で島を出た。
その後行方不明となった彼女らの遺骨が、イタリアの自治体から日本に届く。小さな少女の骨を映したセンセーショナルさに世間は「親の監督不行届がこの結果を招いた」とコメントした。
【遠くの街へ】2024/02/28

2/28/2024, 11:49:56 AM