あの後、八木橋からは朝のうちに返信が来ていた。内容は短文だった。彩子は昼休みも電話対応に追われ、LINEを返したのは退勤し、買い物を済ませた後だった。
『眠い時に電話来ると噛みまくります笑』
『今日もお仕事お疲れ様です。お忙しいのに話に付き合ってくださってありがとうございます』
雑談は一度終わらせた方が彼の負担にならないかもしれないと、感謝の文面を送った。
適当に作った夕食を口に運びながら、彩子は気晴らしにchatGPTで恋愛相談をした。
『あなたの返信は彼にとって負担になっていません。むしろ好印象です』
スマホの上に淡々と並ぶ評価文。AIに心がないのは百も承知だが、心のブレを抑えてくれた。
日付の変わる1時間半前、LINEの通知音が鳴った。八木橋からだった。
『いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます』
『僕もたまに噛むことあります。あいつ噛みよったで〜とか思われてるんだろうな…って思っちゃいます笑』
『今日は家で仕事してたんですが、やっぱり身が入らないです笑』
少しネガティブな彼らしい、軽く自虐を交えた文が返ってきた。
日常報告、男性が自分から話を広げる。恋愛指南の動画によれば、これらは会話を途切れさせたくない意思の表れ、脈ありのサインである。
在宅勤務だったから、少し余裕があったのかもしれない。
私のLINEが少しでも彼の孤独を癒せていればいいな。
彩子の頬は自然と緩んでいた。
【君を照らす月】彩子10
11/16/2025, 3:35:03 PM