John Doe(短編小説)

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ソードフィッシュの災難


一匹のグリズリーがいた。彼はこのカナディアン・ロッキーの中で生息するどの他のグリズリーよりも凶暴で、現地に住む人々からも『ベルゼブブ』と呼ばれて大変恐れられていた。彼に補食された人間は数多くいる。しかも、彼の右肩には四十四口径のマグナム弾を食らっているにも関わらず、致命傷には至らなかった。
彼は、陸上で最強の生物だと盲信していた。

一匹のメカジキがいた。彼は太平洋で生息するどの海洋生物よりも俊敏に泳ぎ、彼の天敵であるシャチですらも泳ぎには勝る力を持っていた。食べ物は小型の魚類だったが、いざとなれば剣のように鋭い鼻でどんな敵もひと突きにできると彼は思っていた。
彼は、海洋生物の中で最強だと盲信していた。

そんなグリズリーとメカジキが出会ってしまった。どうして陸の生き物と海の生き物が出会うことがあるのか?それは愚問だ。何故ならグリズリーは陸の生物を全て駆逐し、メカジキもまた、海の生物をことごとく殲滅したからである。

地球上の動物はグリズリーとメカジキだけが残った。おかしな話だが、彼らは戦いを始めた。地球最強の生物はどちらか、決着をつけたかったのだろう。両者は浅瀬で戦うことにした。

結論を言うと、グリズリーはメカジキの腹を爪で引き裂いて、メカジキは内臓を溢しながら沖へ流れていった。だけどソードフィッシュと呼ばれるだけあって、彼もグリズリーに自慢の鼻を心臓めがけて突き刺した。鼻は折れて、メカジキはそのまま死んでしまったのは言うまでもない。
グリズリーもメカジキの鼻が突き刺さったまま苦しそうに陸までよろけながら歩いたが、バタリと倒れて死んでしまった。

こうして、地球には昆虫と植物以外、人と動物はみんないなくなった。
メカジキは『ソードフィッシュ』という立派なあだ名もあって、その最期はあっけないものだった。

彼らの災難から僅か数日後に、地球に隕石が衝突して全てが終わることを、彼らが知る由もなかった。

9/18/2023, 2:11:46 PM