「私たち、どうも今世では一緒になれないようね。」「え?」
「結婚するの。私。」
いつものお茶会のはずだった。
「えっ……と、」
「だからこうして会えるのも今日で最期。ごめんなさい、急に決まったことなの。」
「急にも程があるよ……。」
「仕方ないのよ。」
「……おめでとう……で、いいのかな……」
「ありがとう。」
「その……ど、どなたと……あっ!差し支えなければなんだけど……!」
「誰でしょうね。私が一番知りたいわ。」
「あっ……!ご、ごめん。」
「なぜ謝るの。貴女は何も悪くないでしょう。」
「ご、ごめん……。」
「……どこかの伯爵らしいわ。私より一回り以上、上のね。」
「そっ、か……」
腹の奥がずんと重くなる。あとから冷静になって、これが“絶望”だと知った。
「……今まで良くしてくれてありがとうね。」
私が男に生まれていたら。
「明日から挙式までは屋敷に幽閉されるから。会いに来ても無駄よ。幼い頃からやんちゃしすぎた天罰ね。今更逃げも隠れもしないのに。」
「……優しい人だといいね。素敵な人であること……心から願ってる。」
「……そう。」
「……ごめんこれ以上は無責任なことしか言えない。」
男だったら、今すぐこの娘を奪い去ってしまったのに。
「今世は運がなかったわね。神様も意地悪ですこと。少しくらい、甘やかしてくれてもいいのに。」
「……ほんとだね。」
「貴女も他人事ではなくてよ。遅かれ早かれ縁談はつくのだから。……私の方が早かっただけ。それだけよ。」
生まれ変わったら。
「あ、あのさ!」
生まれ変われたら。
「なに?」
「来世は、ちゃんと奪いに行くから。」
「……馬鹿。」
「え……?」
「今世でもちゃんと奪いに来なさいよ。馬鹿。」
揺れる瞳の奥の底知れない悲しみは、計り知れないほど暗くて、深くて。
いつも強気な彼女が途端に頼りなく映り、今にも消えそうな少女を堪らず抱き留めた。
「ちょっ……!」
「必ず迎えに行くから。ちょっとだけ待ってて。」
「…………本当?」
「うん。だから、生きて。お願い。」
「……うん。」
「元気でね。」
「……えぇ。」
また、会いましょう。
11/13/2023, 4:36:41 PM