夜景を見る人それぞれに、客観視の概念があると思う。
海側、二階席のグリーン車。東海道線。籠原行き。
その人は製造業の工場派遣をしているというのに、行きと帰りの通勤電車はグリーン車を使っている。
早朝は小田原行きの東海道線グリーン車。
夜7時、つまり現在時刻は籠原行きの東海道線グリーン車。
それに乗って、都会に帰るのだ。
新幹線を使えばいい。普通車のすし詰め状態のくぐもった声。
それらを無辜の民のように聞き流して、お茶のペットボトルを一本飲む程度の有意義な時間を過ごす。
帰りは駅弁を買い、グリーン車で食す。
……ことができればいいが、そんな贅沢、いつもできるわけではない。
藤沢市の住宅地を見渡した。
川崎工業地帯を見やった。
品川駅越しの高層ビル群、高層ビル街を眺めた。華やかなイルミネーションのように、建物自体に光が咲き散らばっている。人の営みが纏わりついている。
夜の都会は眠らぬ。どうしてかと思考を巡らす。
残業手当のために居残っている同胞か。
あるいは家族の団欒のために漏れる光か。
それから夜景をデザートとして、夜のディナーを戴いている富裕層たちか。
無人の建物の中にいるロボットの電源装置か。
昼夜逆転した夜勤バイトの疲れた香りか。
かつて遊んでいた子供の年齢で塾に籠もる自習室から漏れる光か。
誕生日を祝う、ろうそくの光。
投げ出したPCの見えない印。
そんな意味を持たすなこの光たちに。
たった2秒の過ぎゆくグリーン車の、眺める車窓のために、人間たちはいつものように意味を持たし、意味を投げ出している、という夜景。
東海道線車内の横揺れを感じる。グリーン車だから、音は若干抑えられている。
ペットボトルの蓋を開け、薄っぺらいお茶の味を味わう。まもなく新橋、新橋です。
9/19/2024, 9:55:57 AM