【この場所で】
俺は人を殺した。
衝動的な怒りからだった。
だってアイツが悪い。
アイツが、アイツが俺の彼女と浮気してたから。
彼女も一緒に埋めてやった。
だって彼女に見られたから。
そして憎かった。
あんなやつと一緒に寝て可愛い声で喘いでる彼女が、途端に汚く見えて。
気がつけば、手と服をベットリと血で濡らして、ピクリとも動かない2人を見下ろしていた。
『、、え?おい、おい、、起きろよ、、』
彼女を揺すっても、ただ虚しく死後痙攣が起きるだけ。
『ど、、どうしたら、、、』
何処かで声がする。
"隠せ。隠すんだよ。"
『な、何言って、、警察に、いや、救急車、、』
"違う。隠せば何も起こらない。行方不明になるだけ。お前はただ、恋人と親友を亡くした孤独で可哀想な被害者。そうだろ?"
そうだよ。だいたい、アイツらが俺を裏切ったのがいけないんだ。
アイツらが悪いんだ。俺は悪くない。
"ああ。そうだ。お前は何も悪くない。いいか?遠くの山の林にそいつらを捨てに行くんだ。お前は隠すだけ。死体遺棄じゃない。隠すんだよ。"
『ああ、、わかった。』
これは誰かの声じゃない。俺自身の心の声だ。
俺は2人をブルーシートで包み、血痕を綺麗に特殊な薬剤を使って跡形もなく消し去った。
そこから車に乗り込み、親友がよく山登りで行っていたという竹林に2人を埋めた。
なかなかにハードな作業で、俺は顎に伝う汗の感覚を感じた。
『っふー、、ったく、大変な作業だった。』
親友と元カノが埋まっている部分を見下ろし、唾を吐いてやった。
『ゲス野郎どもが。』
そう吐き捨て、隠す作業は終わった。
そこから、俺は泣き真似と警察の事情聴取のための質疑応答の準備をした。
あくまで警察を怖がっている一般人の様に。
どんな質問をされても、思い出しながら答えられる様に。
万が一を考え、事情聴取のシュミレーションをしていたので、警察が家に来た時も落ち着いた一般人の対応ができた。
『やけに落ち着いていますね。聴取をされるのは日常的なのですか?』
『いえ、、実はものすごく緊張してます。警察の方を見ると、悪いことをしてなくても緊張するものなので、、』
『ははは、、そうなんですか。それで、、11月6日の午後7時ごろ、何処で何を?』
途端に今まで柔和な雰囲気の刑事の瞳孔が鋭くなった。
『はい、、実は、彼女に浮気をされていて、、その場面にちょうど遭遇したんです。それで俺、めちゃくちゃ腹が立って、2人を半裸のまま追い出しました。』
『殺したのではなくて?』
一瞬、心臓が跳ねた。
相変わらず刑事の瞳孔は鋭く、俺の心の中を見透かしている様だった。
"落ち着け。いいか?極めて冷静に、お前はやってない。
一般人だ。親友と彼女を失った可哀想な被害者だ。"
そうだ。落ち着け。
『な、何を言ってるんですか?俺が殺したと思ってるんですか?!』
心理学の本で読んだ。
殺人の疑いをかけられた時、犯人は笑い、無実の人は怒る。
殺人犯はこんな感じ。
『ははっ、殺すわけないじゃないですか。酷いな。』
無実の人はこんな感じ。
『殺すわけないだろ!!』
みたいな。
それで俺は怒るを選択した。
だって、、無実だから。
『すみません、、』
隣にいた相棒の刑事に小突かれて、刑事はしおらしく頭を下げた。
『いえ、、刑事さん、2人は俺のせいで行方不明になったんでしょうか、、?俺が怒って2人を半裸のまま追い出したから、、』
目に涙を滲ませ、顔を伏せ、鼻を啜る。
『そんなに気に病まないでください。2人は我々が責任を持って見つけ出します。』
刑事の同情した声が頭の上から降ってくる。
これで、、大丈夫。
『はい、、必ず、必ず2人を見つけてください、、』
"上出来だ。相棒。お前はよくやったよ。"
刑事2人は泣いている(泣き真似をしている)俺を残し、殺人現場であるこの場所を出て行った。
パタン、、
車の走り去る音を聞きながら、俺は大きく脱力した。
『ふ〜、、クックックッ、、バカな奴らだなぁ。まったく、、せっかくの殺人現場であるこの家に入り、何もせずに出て行くなんて、、ハハハハハッ俺は!この場所で!この場所で2人を殺したんだ!!アハハハハハハハハハッ!』
2人が血を流して倒れていた場所に寝転がり、床に染み付いている血の匂いを嗅ぐ。
"相棒。念には念をだ。死体を埋めた場所を見に行こう。"
そうだな。
5時間かけて、あの竹林に着いた。
埋めた場所を見つけ、少し掘り出してみる。
『ん、、?』
そこに2つ分の死体はなかった。
『は、、?もう、もう見つけられたのか?』
マズい、、冷や汗が吹き出した。
俺は周りを見回し、また土を見下ろした。
ふと、俺の真上に何かの影が降りている。
上を見上げれば、、
腐敗した2つの死体が、竹に打ち上げられて空高く昇っていた。
『、、、』
"焦ったな。さぁ、竹を切り倒してさっさと埋め直そう。"
ああ。そうしよう。
腐敗した死体をもう一度埋めるのは、至難の業だった。
『はぁ、、ったく、、死んでも迷惑かけんなよっ。』
そこらへんの竹を蹴る。
竹が振動で揺れ、葉がガサガサと俺の罪を隠す様に揺れる。
『ハハッ、、また来るよ。この場所に。』
俺はこの場所を一生忘れないだろう。
何てったって、俺の大事な親友と彼女がいるんだから。
2/11/2024, 11:35:57 AM