NoName

Open App

「落下」

これは夢だ。多分。

薄暗い階段を降りている。待ち構えていたドアを開ける。暗い。かすかに前方に灯りが見える。そちらに向かって一歩踏み出す。が、足は空を切り、そのまま落ちて行く。

パフンとおしりから着地した。何かわからぬが柔らかなもので受け止められている。これはもしやトトロでは?上からかすかに灯りがもれる。高さは測りかねるが高いことは間違いない。

メイのようにそろそろと立ち上がってみる。ふわふわしたクッションみたいだ。柔らかすぎて歩きにくい。ネコバスはこんな感じなのだろうか。

「ようこそ」
急に声が聞こえる。どこから?上からのようでもあるし、下からのようでもある。

「時間迷路のルールを説明します、簡単です。これらの階段は上に行くと未来、下に行くと過去とつながっています。過去と未来を行き来して、うまく現在に帰るだけです。あのかすかに見える灯りが現在です」

「帰れるんですよね?」

「それはあなた次第」

「もし帰れなかったら?」

「ご安心ください。リタイヤドアを随所にご用意しております。無理だと思ったらそちらのドアから外に出られます」

「よかった」

「そこがどこかはわかりかねます。それではお楽しみください」

急に明るくなり広々とした空間が広がっている。ゴールの灯りはまるで太陽のようにあたりを照らす。ゴールはあそこだから、とりあえず上に向かえばいいよね。

階段を上る。上りきって踊り場に出ると上にあったはずの太陽が真横の位置にある。しかし水平には進めない。いったん下がってそっちの方角を目指そう。

何度も繰り返していると自分が下りているのか上っているのかわからなくなる。エッシャーのだまし絵を3次元にするとこうなるのか?

もう丸三日抜け出せない。なぜ三日経ったのがわかるかって?ご丁寧にあの声が教えるからだ。「リタイヤしてもいいんですよ」とか「制限時間はありませんからごゆっくりとか」

十日が経った。もう限界だ。疲れた。リタイヤドアが見える。ドアの向こうがどこでも、ここよりはましだ。迷わず開けた。暗い。向こうにかすかに灯りが見える。そちらに向かって一歩踏み出す。

後悔した。デジャヴ。足は空を切りどこまでも落下する。今度はもっと長い。パフン。十日前よりももっと高いところに灯りが見える。

「ようこそ」

夢よ、早く覚めてくれ。

6/18/2024, 11:39:04 AM