「しばらく、バレエは控えた方が...」
この言葉が脳裏から離れずに、ずっと響いている。どうして、私が。
物心ついた時から、私の生活の一部のバレエ。新品のトウシューズも今ではもうオンボロ品だ。
ずっと、ずっと続けてきたのに。私にはこれしかないのに...息苦しい。
その日の夜はろくに眠れず、ただ枕を濡らし続けた。どうしよう。あの子に追いつかれちゃう。
私の二つ下の後輩の木枯 雛ちゃん。今ではバレエ教室内で、一番の私に並ぶ程の力をつけている。あの子の前で、私は一番でありたいのに。私の挫折は彼女にとって、成長するための肥やしでしかない。
「っくそ...くそぉっ...!」
私はステージに立てなくなったんだ。
「アキレス腱炎だってね、花ちゃんももう大学受験でしょう?辞める機会には丁度良いんじゃないかしら?」
遠回しに先生に必要ないと言われた様で、酷く心が痛む。私はまだ足掻いていたい。けれど、続けたいとは言わなかった。言った所で無駄だと感じたからだ。
足取りが、痛みだけでは無い何かのせいで重い。何十年と通った教室も今日で最後だ。
「...ねえ、花。バレエ続けたいんじゃない?」
「...え?」
「お母さん、昨日聞いちゃったから。もし、もう辞めるなら別に良いんだけど、続けたいなら、続けるべきだと思うし、バレエはやるだけじゃ無いと思うから」
母の言葉を聞いて、またステージで舞えそうなくらいに足が軽くなった。そうだ、どうしてやる事だけに囚われていたんだろう。他にもっとあっただろうに。ショックで視野が狭くなっていたのだろう。
私はバレエをやめないというより、やめられない。
たとえまた嵐が来ようとも、大丈夫だろう。
花は舞い散っては、咲き誇るのだ。
2024/07/30 #嵐が来ようとも
7/30/2024, 8:53:44 AM