夜の祝福あれ

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赤になったら、言うつもりだった

高校の通学路にある、ひとつの信号。
毎朝、同じタイミングでその信号に立つ二人——
無口な男子・遥と、明るい女子・紬(つむぎ)。

彼らは言葉を交わすことはない。ただ、信号が赤になると、少しだけ視線を交わす。
それが、二人の“関係”だった。

ある日、紬が言う。

「ねえ、もしこの信号が赤になったら、私、言うね。ずっと言えなかったこと」

遥はうなずく。
でもその日、信号はなぜか、青のまま変わらなかった。

次の日も、その次の日も、信号は赤にならない。
紬は姿を見せなくなり、遥は初めて彼女の名前を検索する。

そして知る——紬は事故に遭い、入院していた。
事故現場は、あの信号のすぐそばだった。

遥は病院に向かう。
そして、彼女の病室の窓から見える信号が、赤に変わる瞬間——
彼は、言えなかった言葉を口にする。

「俺も、ずっと言いたかった。……好きです」

9/5/2025, 11:49:42 AM