幸せに
朝に目を覚ますと、もう彼はいなかった。
きっとあいつのところへいったのだろう。
ゆっくりと体を起こし、洗面所へと向かう。
彼らは、二人で一つの『人』。
先月の彼なんて生きているのか死んでいるのか判別できやしなかった。
適当に歯を磨きながら、水を入れた薬缶を火にかける。
ぐしゃぐしゃになった彼らを連れて『私』の部屋へと連れて行き、無言でコーヒーを飲んだ。
――そういえば、あの夜飲んだコーヒー豆はこれだったな。
口をゆすぎながら、思い出し笑いをした。
キッチンに戻り、ミルで豆を挽く。
豆が粉に変わる瞬間は毎朝しているルーティンの中で最も好きなことだ。
「はてさて、どんな会話をしてることやら」
挽いてる途中で沸いたお湯をマグカップへと注ぐ。
「再会の歓喜か、開口から後悔の言い合いか」
唇に孤を描きながら、カップの湯を捨てる。
「それとも、置き土産をした失態を知るか」
コーヒーフィルターに豆を入れ、湯を注ぐ。
いつもは丁寧に淹れるが、今日は別だった。
「残念だったなぁ」
適当にじゃばじゃば入れた黒い飲み物は、カップの周りを汚していた。
「私が共に死ななかったのだから」
ガシャンとドリッパーを流しに雑に投げ込む。
中から粉が溢れ出る。
『私』は一瞥もくれず、ポケットに入っていた薬を取り出し、後ろのゴミ箱へとぶん投げる。
「誰が、手前らと死ぬかっ! 死ぬ時なんざ、どうせ独りなんだよっ!」
苛立たしげにマグカップを持つ。溢れたコーヒーが服へとしたたる。
「お似合いの双子だったなぁ。あいつ等だけで死ねばよかったんだよ、似たもの同士ども」
グビっと酒を煽るように、熱いコーヒーを飲んだ。
「あの世でとうぞお幸せに!!」
3/31/2026, 2:11:25 PM