せつか

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綺麗な髪だと思った。
綺麗な目だと思った。
綺麗な声だと、綺麗な指だと、彼に関する何もかもを綺麗だと、思った。

彼からこぼれ落ちる何気ない仕草のひとつひとつが、彼が発する何気ない言葉や色が、きらきらと輝く星のかけらになって、私の胸にあるものは突き刺さり、あるものは降り積もっていったのだった。

そうして私の中で彼の存在がどんどん大きくなって、やがて膨らみ続けた想いは爆発寸前になるまで持て余すしかなくなって、どうにもならないところまで追い詰められた私は、彼との距離を測り兼ねて、逃げるように彼の前から姿を消した。

嫌いになれれば良かったのか。
諦められれば良かったのか。
――そんな事が出来るなら、こんなに苦しむ事は無かった。

荒んだ胸に降り積もった綺麗なものは、やがて星がその命を終える時のような激情を私にもたらした。
ひとつひとつはほんの小さなかけらだった。
けれどそのひとつひとつが綺麗で、宝物のように、種火のように私の心を満たしていた。

彼と出会ったのは幸か不幸か。
少なくとも私の生において不可欠だったのは確かだ。

私がこんな想いを抱いていた事を知ったら、彼はどんな顔をするだろう。
それが見られない事だけが、心残りだ。

空を見上げる。
満天の星空だった。


END


「星のかけら」

1/9/2025, 3:10:10 PM