空蝉

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さよならの前の少し寂しげな君の顔が好きだった。

別れを切り出したのは僕からだった
君のことは好きだ、大好きだ。
多分この先もずっとずっと好きだと思う。
だけど君はそうじゃないから。
本当は別れたくない自分を鼓舞して、
最後くらいは自分で終わらせようと君に別れを告げた
見慣れない顔で「じゃあね。」
なんて言う君に悲しくなって気づけば呼び止めていた 「最後に抱きしめていいかな。」
そう言うと、君は黙って頷く。
「やっぱり君は優しいね。」
だけど、僕を引き止めてはくれないんだね。
お互いの最後の体温を感じ、僕達は暫くそうしていた。
「よし、それじゃあね。体調には気をつけて。」
僕は君とは反対方向の駅に向かって歩き出す。
後ろを振り返らないように早足で歩く。
視界の端で見えたいつもの君の寂しげな顔をこれ以上
見ないように。僕の気持ちが揺らがないうちに。


―――さよならを言う前に

8/20/2024, 12:34:41 PM