ゆかぽんたす

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誰も居ないテニスコート。それもそのはずで今日は部活がオフの日だった。なのに球を打つ音がする。こっそり覗くとありえない人が居た。
「先輩……」
「お。おつかれー」
私の気配に気づいて先輩は壁打ちをやめた。散らばった球を拾ってこっちに近付いてくる。
「どうしたんですか?」
「ん?気分転換に。なんか打ちたいなーって思ってさ」
先輩たち3年生は先月の夏の大会で引退した。あれからもう新部長の新体制で部活が始まり、ちょうど今日で1ヶ月が経つ。たった1ヶ月姿を見なかっただけなのに、なんでか、コートにいる先輩がすごく懐かしく感じた。
「新しい部長はどーよ?」
「まだ、いろいろ慣れなくてテンパってます。でも、私の話とかもちゃんと聞いてくれるのでそこは信用できます」
「そっかそっか。ま、良く支えてやってくれよ、マネージャーさん」
「……先輩は」
「ん?」
先輩は、私がマネージャーで良かったですか?
前部長である先輩を、私はちゃんと支えてあげられてただろうか。全てが終わって、先輩が部を去ってからぼんやり思うこと。新しい部長の子と比べるなんておかしな話だけど、先輩の時代の時は私は何一つ困ることなくマネージャー業ができた。経験の差とか、歳上だからとか色々理由はあるけれど。見えないところで先輩は私に気を配ってくれていた。なのに先輩はそれを表に出さず、試合の時はいつものプレーをしていた。私の目にはいつも先輩がきらきらしていた。誰よりもきらめいていた。そんな先輩が、好きだった。
「……いえ。なんでもないです」
こんな質問は先輩を困らせてしまう。だから言わなかった。私がすべきことはこんなことじゃない。次の部長を精いっぱい支えることだ。先輩が私たちを引っ張ってくれたように。今度は私がそれをやるんだ。
「よろしく頼むぞ」
「はい」
はっきりした私の返事を聞いて先輩は笑顔を見せた。それは私の好きな、きらきらした、きらめいた笑顔だった。

9/5/2023, 3:26:03 AM