viola

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『星が溢れる』

きっと、彼にとってはなんでもない日だったろう。
でも私には愛すべき記念日だった。
彼と出掛けることができたすてきな日。
ある日バイト終わりに彼と連れ立って歩く道。
夜も更けてひとりで帰るには暗くて不気味な道だけれど、彼が居ればそれだけで華やいで見えたんだ。なんでもない花を見つけ心を砕ける、そんな子になれたんだ。
彼の向ける視線の先には瞬く幾つもの煇。
物珍しそうに目を細め見上げる彼がなんだか少しおかしくて、そっと星を指差し微笑んだ。こちらを見た彼の、息を飲んだ声が聞こえた。すぐに背けてしまったから、真っ暗闇の中では彼の朧げな輪郭しかわからなかったけれど。
それでも幸せなひとときで、なにより得難い幸福。
確実に、幸せだった。



彼が見上げてくれたあのほしに、8年前の私は相成った。

3/15/2023, 10:59:55 PM