作家志望の高校生

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がたん。がたん。一定のリズムを刻む電車内で、僕は隅の席に座って半透明な壁にもたれかかる。平日の真っ昼間だからなのか、はたまた田舎だからか、車内には数名のお年寄りが居るだけでがらんとしている。制服を着て、自転車に乗って。いつも通り、学校へ行こうとした。僕は通学に電車は使わないから、いつも駅は近道として通り抜けるだけ。今日だって、いつものように素通りしようとした。けれど、チカチカと光る電光掲示板がやけに気になって目についた。行き先はうっすら聞いたことがあるくらいの街で、乗口は3番ホーム。今から切符を買えば、余裕を持って乗れるだろう。僕は、吸い込まれるように自転車を駐輪場に停めた。
駅は通勤通学の社会人やら学生やらで混み合っていたが、僕の乗る電車はそのラッシュより少し遅いようで、ホームはほとんど誰も居なかった。勢いで切符まで買ってしまったが、何がしたいのか自分でもまだ分からない。ただ学校がサボりたいだけかもしれないし、その街に強く惹かれる何かがあったのかもしれない。どうせ学校はもう遅刻だ。無断欠席になるだろうが、もう知ったこっちゃない。半ば自暴自棄で、到着した電車に乗り込んだ。
電車に揺られて4,5駅進んだ。終点に着いて、電車を降りる。駅を出ると、当然そこは知らない景色が広がっていた。駅周辺から少し外れて、シャッター街になった商店街を歩く。制服のままの自分は、なんとなく除け者にされているような感じがした。あてもなく彷徨って、昔からありそうな古びたスーパーに入った。ローカルスーパーなのだろう、中には数名の老人と主婦らしき女性が数名居た。制服を着た学生がこんな時間にスーパーに居るのは確かに異質だろう。ちらちらと視線を感じる。適当に歩いて、お菓子コーナーを覗いた。おばあちゃんの家にあるようなお菓子が並んでいて、その横に幼児向けのお菓子が並んでいる。その中間である僕らが好むようなものは少なかった。
結局、初めて見た謎のジュース一本を買って店を出る。飲んでも何味かよく分からないそれを持って、気の向くままに散歩を続ける。ふと、鼻先を食欲をそそる匂いが掠めていった。釣られるように歩いていくと、肉屋があった。本当に、アニメでしか見ないような昔ながらの肉屋だ。テンプレ通り、コロッケが売っていた。うっすら憧れていた状況に、対して空腹でもないが買ってしまう。一口齧ると、美味しすぎない絶妙な美味しさが口内を満たした。
帰ってから親にしこたま叱られたし、翌日は学校でも叱られた。でも、僕は満足だった。見知らぬあの街のあの光景は、学校でも家でも満たせない何かを、確実に満たしてくれたのだから。

テーマ:見知らぬ街

8/24/2025, 2:26:38 PM