快晴の空から降り注ぐ光が肌を焼き付ける。湿気を帯びた空気も相まって、体力が雫として流れ落ちる。病院と家、たまに買い物の日々。
「和泉くん?」
心臓が縮こまり、体に震える。前の職場の人間か、と恐る恐る振り返る。
「近衛……部長」
日傘を差し、サングラスをしているその人は、かつてお世話になった上司だ。体はあまり強くないらしいが、仕事と気遣いのできる優しい人だった。
「覚えてくれていたんだね。あぁ、そうだ。日傘はいるかな、昨日忘れた分もあってね」
差し出されるままに受け取るが、高価なものだとわかって今すぐに返したくなる。しかし、せっかくの好意を無下にするようで……。
「すみません、お借りします」
「良かった。暑い日が続くから、水分補給も忘れずにね」
退職してから少し経つが、何も成長していない。そんな私を見て、部長はどう思ったのだろう。話を切り出したときも、寂しそうにはしていたが、引き止められることはなくて。
「和泉くん、また会おう。気をつけて帰るんだよ」
「はい……部長も、お気をつけて」
借りた日傘を差し、影に守られながら家路につく。また会うといっても、連絡先も何も分からないというのに。
「……君のことをずっと待っているからね」
Title
『暑聴』
Theme
「日差し」
7/3/2024, 3:04:35 AM