moooosha

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なぜこんなことになっているかわからないけれど、順を追って頭を整理すると。惰眠を貪っていた午前を取り戻そうと、
コーポエリーゼから歩いて40秒。何を頼むか考える間もなくつくこの距離に、[喫茶 純]は、ある。

少し重たい扉を開けると、ドアベルが耳に心地いい。店内はオープンキッチンが開放的な印象で、それを取り囲むようにいくつかの大きな切り出しのテーブルがある。
入口右手の出窓も、カウンターテーブルのようになっており、2つの丸椅子が少し手狭そうだが居心地の良さそうな雰囲気がある。

そこに見慣れた丸い背中がある。
コーポエリーゼの管理人さんだ。
ここでは何度か会うが今日は手を振っている。おいで、おいでと呼んでいるようだ。


「どうも、よければご一緒しませんか」


「あ、いつもお世話になってます、お邪魔しますね」


普段だったら少し億劫に思うが、心なしかウキウキしているように見えて、ご機嫌の理由を聞いたほうがいい気がした。


「何かいいことでもあったのですか?」


「ふふ、今日は好きな曲が流れるのです」


聞くと、その曲とやらは[3と8がつく日に必ず流れる]らしい。

店内のBGMはストリーミングで店主のお気に入りを、店主のルーティーンに合わせて、テーマやジャンルなどが日替わりに決まっている、そうだ。いわゆる、音楽の日替わりランチのようなイメージ。


「あ、この曲です、聞いてみてください」


と年甲斐にもなく人差し指を立てて口元へ可愛く添える。なんだろう、この仕草、おじさんがやると少し面白い。曲に集中しようと目を閉じる。






「不思議な疾走感と爽やかさがある曲ですね」


私が言うと、管理人さんは今度は得意げな顔をした。


「牧野さん、実はかねてよりお話ししたいことがあったのです」


管理人さんの話によると、私の住む201号室の上の階にはある作詞家が住んでいるそうだ。それはいわゆる[ゴーストライター]をしている人で、世の中から身を隠して過ごしているらしい。そして、例の[3と8がつく日に必ず流れる曲]の作詞をしている人物であるそうだ。


「ここからは了承のお話になりますが」


先程口元に運んだ人差し指を再び立てて、自身の顔の前にピッと突き出した。この人のこれは、癖なんだな?……続きの説明を聞こう。

なぜこんなことを話すかというと単純で、生活音に加えて
昼夜逆転して過ごしているので迷惑が……ということらしい。なんと律儀なゴーストライター、と初めは笑ってしまった。管理人さんも同じことを思ったらしいが、どうにも本人からの意向だそうだ。


[喫茶 純]で聴いた[3と8がつく日に必ず流れる曲]しかり、夜に宿る人とは?コーポエリーゼに出没する[幽霊]に会ってみたいものだ。


透明🫥というテーマでしたが、後ほど書き直します。

5/22/2024, 12:20:06 AM