20XX年、人類はタイムマシンを発明し、ついに時間すら支配下に置いた。
だがタイムマシンが一般人にも使われるようになると、それを使って過去を改変する犯罪――時間犯罪が起きるようになった。
当初は世界警察が対応していたものの、やがて警察では手に負えなくるほどに急増した。
そのはびこる犯罪を解決するため、タイムパトロールが設立された。
そしてこれは世界各所にある支部の一つ、日本支部の一幕である。
🕙
「はあ、やっと終わったよ」
「おつかれー。コーヒー飲む?」
「飲む」
俺の名前は健司、タイムパトロール隊員である。
俺にコーヒーを渡してくるのは同僚の沙耶。
優秀な隊員であり仲間からの信頼も厚い。
だが、少々お喋りなのが玉に瑕。
「仕事終わりのコーヒーは特にうまいんだよな」
「私が淹れたからかな?」
「飲みなれた奴が一番って意味だ」
「お世辞でも『そうだよ』って言えよ」
「やだ」
会話もそこそこにコーヒーを飲む。
やはりいつものコーヒーはウマい。
のどが渇いていたのか、すぐに飲み干しまう。
「お代わり」
「自分で入れな」
「へーい」
立ち上がり、コーヒーメーカーを起動させる。
沙耶は興味深々の顔でこっちを見ていた。
仕事の内容を聞きたいのだろう。
俺がコーヒーを淹れ終わると、沙耶が話しかけてきた。
「今回はどこいてったの?」
「あー戦国時代。織田信長倒して日本の頂点に立つとかなんとか。
俺が到着したときにはボコボコにされてたけど」
「ああ、未来の人間だからって変な自信があるんだよね」
「一度も、時間犯罪は完遂されたことないのにな。
何が楽しいのやら……」
「なんか、自分にとっての理想と少しでも違うと不満らしいよ。
私の時なんて、読んでた漫画の展開が気に入らないからって、時間犯罪起こした奴捕まえたことがある」
「それ、俺が知っている中で一番くだらないわ」
「君のやつも結構くだらないけどね。
でも、もっとひどいのもあるよ」
「まじ?どんなの?」
「それはね――」
『ビービー、時間犯罪発生、時間犯罪発生。
待機している隊員は、速やかに対処せよ』
警報がけたたましく鳴る。
その大音量に俺は、思わずため息を漏らす。
「はあ、またかよ。オレ帰って来たばかりだぜ」
「文句言わないの。
健司の相棒、もう帰っちゃったから私がついて行ってあげる。
喜びなさい」
「へーい」
俺たちはタイムマシンに乗り込む。
沙耶は率先して運転席に乗り込み、慣れた手つきで機器を操作する。
帰って来たばかりの俺を休ませてくれるつもりらしい。
そう言った気遣いができるから、俺もコイツのことを信頼している。
「よし、準備出来たよ」
「こっちも準備OKだ」
「了解!タイムマシン起動!」
沙耶は掛け声と同時に起動ボタンを押す。
タイムマシンが起動しすると、体に浮遊感を感じる。
これ何回やっても慣れないんだよな。
「『今日』とは、しばしのお別れね」
「もう少し一緒にいたかったんだけどな」
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて帰りましょう
タイムマシン、発進!」
そうしてまだ見ぬ『過去』に飛ぶ。
『今日』よ、さよなら。
だけどすぐ戻ってくるよ。
『今日』コーヒーを飲むために。
2/19/2024, 9:53:45 AM