わをん

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『失恋』

恋の始まりはぼんやりとしたものだったけど、恋が終わったときをはっきりと覚えている。心にできた傷を庇わないとまた泣いてしまうから、恋を思い出させるものを身の回りからごっそりと無くしてしまい、ロングヘアが好きだからとがんばって伸ばしてきれいにしていた髪もバッサリと切ってもらった。
美容院から出ると辺りは夕暮れどき。帰り道にふたりでいったことのある喫茶店が目に入る。ここのフレンチトーストが絶品なのだと彼は嬉しそうにしていたけど、甘いものは実はそんなに好きではなかった。ふたりでいったことのあるゲームセンターでぬいぐるみを取ってもらったけど今はもうごみ収集を待つ袋の中。ふたりでいったことのあるコンビニでよく限定スイーツも買って一緒に食べた。それよりは限定ビールのほうが気になっていた。
コンビニに入って出て、その場で缶ビールを開ける。ほろ酔いに思い出をうやむやにしてもらいたかったのに、彼とのどうでもいいような思い出はひとつまたひとつと思い出されて涙が滲む。涙を押さえつけるように残りを一気に飲み干して空き缶はゴミ箱へ。気分は晴れないし、夜を睨みつけても涙は拭いきれなかった。

6/4/2024, 4:06:48 AM