江戸宮

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人が発する言葉には温度があると教えてくれたことがある。
先生には独特の感性があるのだろうか時々難しくて不思議なことを口にすることがあった。
あんなにかっこいい現代風の見た目をしているのに中身は繊細でどこまでも尊い文学を愛する人。
そんな人から話を聞けるのはなんだか先生のトクベツになった気がして、ちょっぴり気恥ずかしくてそれと同じ位うんとうれしい事だった。

先生の言葉を借りていうなれば、先生の言葉は真夏に燦々と煌めく太陽のようであり、暗闇を照らす眩い月でもある。
矛盾したような温度であるのに、いつも私をその時求めている適温で優しく包み込んでくれる。

「こんにちは、」

今日は暖かくていい気持ちだね、と珍しく窓辺の椅子に腰掛けた先生がそう続けた。
あ、今のは春の優しい日差しと頬をくすぐる風、体感にして17℃ぐらい。
先生が私に対して感じる温度は一体何℃なのだろうとふと考え込む。
先生が気になったように覗き込んできたのでここは大人しく観念して、今まで考えていたことを掻い摘んで話した。
う〜恥ずかしい……、と暫く悶えた先生だったけど、すぐにやっぱりなんでも分かったようになるほどねと呟いた。

「貴方の言葉は30℃くらいの夏日かな…、う〜ん16℃の春の日向?」

しばらく真剣に悩んだ様子の先生が可愛くてどんな答えが帰ってきたとしても嬉しいと思った。
先生が私のことを考えてくれること時間が幸せだったから。
先生は一体私の言葉を何℃と捉えているんだろう。
そんなことどこのテレビを見たって教えてくれない。
天気じゃあるまいし、でも天気みたいに簡単に分かったらそれもそれでロマンチックじゃない。
先生が必死に頭を使って考えているこの時間ずっと胸が痛かった。
ジクジクと傷んで心臓から朽ちた果物のようにドロドロに溶けてしまいそうだったから。
先生がもし私を夏の嵐や台風に例えてもきっとまた先生への好きが募るのだろう。


2024.3.27『My Heart』

3/27/2024, 2:33:49 PM