その怪異は、噂によれば、透き通るように細いあの朝日の中にあるはずだった。
ところが、その日は雨が降っていた。
厚く曇る灰色の空から、銀に光る縫針のような細い雨が、ひっきりなしに降り続いていた。
私が君を見たのは、そんな雨の日だった。
「雨は嫌いなのに」
私と目が合うと、君は少々驚いて、釈然としないようすでそう言った。
その頃の私は、とんと噂話に鈍感であったから、君のそれが何を表すかは理解していなかったのだが。
それから私は、雨の日の視界の先に、君をとらえるようになった。
細いにわか雨の中に、君はいつもいた。
雨と君。
私の中では、その2つはセットで、揺るぎないものだった。
あの日も、雨が降っていた。
君を初めて見つけた日のような、縫針みたいな細い銀の雨が降っていた。
その日も私は、雨と君を見ていた。
雨が降り頻る窓に、頬杖をついて。
その時、にわかに日がさした。
君の立っているところに、一筋の、眩しすぎるくらい金色の、日がさした。
見上げてみると、厚い雲がそこだけ、僅か3センチほど、切れ込まれて、そこから黄金の光が斜めにさしこまれていた。
ふと目線を戻すと、もう君はいなかった。
その時、私は悟った。
もう私には、雨と君を見ることは叶わないのだと。
その怪異は、晴れた早朝に出遭うもののはずだった。
透き通るように細い朝日の中にあるはずだった。
その怪異は、細い銀の雨の中の、鮮やかな黄金の光に、とても似合っていた。
雨と君は、斜めに差し込まれた、あの光の中に消えた。
雨だけが、まだ降り続いている。
9/7/2025, 10:04:20 PM