時を止めて
長期休暇開始前日の放課後。今日ほど浮わついた空気を纏う学生で溢れかえる日はないだろう。思い思いに己の計画を話しながら、校舎を出ようと歩く注意力散漫の生徒の波を掻い潜りながら僕は心の中で悪態をついていた。どいつもこいつも浮かれやがって。つい数年前まで学生生活を謳歌していた自分のことはさっぱり棚にあげておくことにする。
がたいの良い男子生徒にぶつかれば普通に吹き飛ばされて笑い者、女子生徒に当たれば当たり方によってはセクハラになる。こっちの気もしれないで良い身分だよな、なんて思いながら階段をのぼる。川の流れに逆らって泳ぐ鮭に親近感を覚えつつ、最上階までたどりつく。
既に殆どの生徒が階下へ降りているだろう、と油断していたのだろうか。角からぱっと現れた学生の姿に思わず後ずさってしまった僕の足は虚しく空を踏み、身体はぐらりと後ろに傾いた。
手摺を掴もうと咄嗟に出した手が空を掴んだ感覚に覚悟を決めて目を瞑る。アーメン、てゆーかお前のせいだからな許さない。瞼の裏に残る、僕を驚かせた生徒のいつでも鉄壁の無表情に釘を打ち付ける。
「っ先生!」
聞きなれた声が聞き慣れない声量で僕を呼ぶ。と同時に空を掴んだはずの腕がえげつない力で引っ張られた。絶対に僕の左腕もけだだろこれ、と目を開けるといつでも無表情なはずの彼の見開いた目と目があった。
「わ、ありがと」
「いや、すみません」
人がいると思わなくて、つい。もごもごと喋る彼の声色はいつものものに戻っているけれど、その焦った様な表情は戻っていない。あの無表情無感情の彼もこんな顔をするんだなと思うと不思議と先程まで彼に感じていた憎しみの感情は薄れていった。……ていうか、とても年相応どころかちょっと幼さすら感じてちょっとかわいいかもしれない。
「……いや、それはまずいだろ」
「は?なに?」
かわいいって、なんだよ。先生が生徒に、僕がよりにもよってこいつに抱いていい感情じゃない。思わず顔を覆った手のひらの隙間からのぞいた彼の顔は、見慣れた無表情に戻っていてそれにほっとしたような、残念なような、変な気持ちになった。
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久々の投稿
果たしてお題に沿っているのか
あんまり考えず、思い付いたまんまに打ち込んでいるので、自分的にはお題通りのつもりなんですが客観的にみてどうなのかちょっと不安
11/5/2025, 3:07:26 PM