燈火

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【今一番欲しいもの】


顔を合わせるたび、君は労いと心配の言葉をくれる。
また痩せたか、顔色が悪いぞって呆れ顔。
働きすぎじゃないかと君は言うけど、私は大丈夫。
自分のためだから苦しくないし、限界はわかっている。

多少の無理をしてでも仕事に精を出す目的は明白だ。
それは、お金。私を裏切らず、いくらあっても困らない。
宝くじで一獲千金とか、不労所得に憧れはある。
でも、時間がお金になる達成感を得られるのは仕事だけ。

私の返す言葉にいつも不満げだが、言わせてほしい。
学生の頃は、君のほうがよほど不健康な生活をしていた。
連日のように徹夜していたのは、どこの誰だったか。
睡眠時間を削っていないだけ褒められるべきだと思う。

たまに実家に顔を出せば、母が孫の顔を見たいと騒ぐ。
どうぞ兄さんに期待してください、と雑にあしらった。
私の初恋は気づかれることなく枯れてしまったのだから。
結婚願望まで二十代に捨ててきて、もう残っていない。

幼なじみで歳の近い君は、本当の弟のように甘えてくる。
学生時代は、勉強を教えてと私の部屋に押しかけてきた。
そして今は、既婚者のくせに私の家に泊まらせてと言う。
質素倹約は賛成だけど、なぜ奥さんも認めているの。

明日になれば、君は奥さんへの土産を持って帰るだろう。
わざわざ旅行や出張ついでに来なくてもいいのに。
すっかり頼れる大人になった君は、まだ危機感が薄い。
私が相手でも安心しないで。無防備な姿を見せないで。

お金を稼ぐために働き、それを生きがいにしている。
何度でも自分に言い聞かせないと忘れてしまいそう。
恋とか愛とか、そんなものを求めても意味がない。
だって、君のはもう売り切れなんでしょ。

7/21/2023, 9:19:58 PM