光合成

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「遠くの空へ」

もう、生きている意味がないと思った。
食っては寝るだけの怠惰な生活に、なんの価値もなかった。
大学生になって、いつの間にか3年が経っていた。
キャンパスの最寄り駅に向かう電車内には、新入生らしき初々しい若者で溢れていた。
この季節特有で、新入生にあるあるの、未来に期待を馳せるかのようなキラキラとした目が視界にチラつく。浮ついた空気が、俺という存在の異質さを浮き彫りにした。
自分にもあんな、真っ直ぐに将来を楽しみにできるような、柔く青い心がかつてはあったのかもしれない。考えるだけで反吐が出そうだ。

したいこともない。叶えたい夢もない。
課題もろくに出さなければ授業にも出席をしない。そんな日々が2年間続いていた。
新学期?だからなんだ。
一念発起だとか、心新たにだとか、そんなくだらねぇもん、俺にはなかった。

心残りなんざなかった。
どこまでも落ちて落ちて、底辺にまで堕落した俺に残されたもんなんかなくて、失うもんも当たり前になかった。
もう、どうでもよかった。
酒に溺れてタバコの煙を常に纏わせてる俺はいない方がこの世界には健康的だ。

大学の最寄り駅に着く。
立ち上がる気にはなれなかった。
どこでもいい、とにかくこのうざったいほどにふわふわして急ぎ足で、焦燥感に溢れた空気から逃げ出したかった。
電車内の大半が降りて、静けさが広がる。

このまま、遠くへ行きたかった。
目を閉じて、電車の揺れに体をあずける。
君の姿を思い出す。
長く綺麗な黒髪に、ふんわりと広がるロングスカート。白いブラウスが太陽に透けて、健康的な肌を柔らかく覆っている。海の良く似合う人だった。
鈴の音のような笑い声が好きだった。
会いたい、会いたいのに。
君がいなきゃ、俺はまともに生きていけない。

このまま、終点まで行けば海がある。
君が好きだと言った海がある。
2年前、最後に君と会った海ならば、そこにまた辿り着けたならば、君に会えるような気がするんだ。
遠くの空へ、なぁ、俺も連れて行ってくれよ。


2026.04.12
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4/12/2026, 10:29:40 AM