秋晴れが微かにトンネルの入り口に降り注ぎ、光が中に流れている。トンネルの道のりは百メートルほどあって、ゆるやかに右にカーブしている。出口はまだ見えない。
廃線跡を歩いている最中だった。
そろそろ秋の彩りが到来するだろう時期の山の中。
ツーリングの道の寄り道。小川から水が乾いた跡のような、ぽっかりと空いたスペースがそれだ。
その小道を一人行く。
今は、風が通り抜けるだけらしい。
去年の落ち葉が細かくなって地面に敷かれている。
一応足元には注意しつつ進んだ。
やがて、明治時代にたどり着いた。
名も捨てられたトンネルが佇んでいる。廃線を辿っているのだから、当然中へ入る。
カツン、カツン、と靴の音は聞こえないが、幻聴で聞こえるような趣がある。
地下鉄のホームで待っている時のような静けさ。そして暗さ。
暗室特有のじめじめと湿気があって、数日前に雨水の通り道になっていたかもしれない、と考える人。
スマホを起動して、即席の懐中電灯。
トンネルの壁面を照らしてみると、それらは全てレンガ造り。
トンネル内で走る、明治時代の電車を想像する。
電気ではない。石炭で走る豪快な古めかしさだ。
煙突から黒煙とともに機関車の叫び散らかす音。
想像通りの騒々しい。文明開化の音……。
すすを浴びきって放置されているので、レンガの一つ一つの色は暗く、すす色に褪せている。
触ってみた。触るのを後悔した。手が汚れる。
でも、パパンと拍手をすると、その音がどこまでも突き抜けるようだった。
いま、私は人の棄てたなかにいる。
照明一つもない。
線路も一本もない。
一人のみの来訪者。
歩く。歩く遺構。
現代から遠ざかる歩み。
足音は聞こえないのが良かった。
出口近くになると秋の陽光の色で、本来のレンガの色を取り戻しているのがわかった。本来の色は朱色のようだ。
振り向くのを後悔する。
ちょっとまだ、引き返したくない。
10/19/2024, 9:48:11 AM