押し殺した泣き声が続いている。自分の上で蹲った長衣は背を震わせ泣いている。もっと大声を出していいと言うと、長衣は喉が絞まるから出せないんだと言った。長衣の背を撫でながら、暫く無言のままただ声を聞く。
「自分が嫌いなんだ。何も無いから。今迄で何もない奴は碌な事が出来ない、ならない気がするから。誰にも顔向けできない」
声も無い、血に啼く響は続く。
「こんな事を思うのも、皆への紛れもない冒涜だ」
どれ程血を流せど塞がらない、吐いて吐き切ることも成らない呻き。
「本当に、自分を貶めたのは自分自身なんだ」
呼吸は浅く、息が切れるのも無視して続けられた声の末尾は、震えた幽かなものだった。
「それで終わるのは他者への冒涜以前に、他ならぬ君自身への冒涜だ」
「わかってる」
静かな返事が成る。
「どうであっても、一度生まれたからには、君が君自身を捨てることは出来ないだろう。折れても挫けても、死んでも完全に捨てることは絶対にできない」
少ししてから、ああ。と長衣は返す。徐々に震えは消え、染めた色が抜けていった。
「今はまだ生きているから、帰るために歩こう」
光が極まれば色も無くなり、輪郭も消えていく。そこに罪科の一つも在りはしなかった。
全て澄んだ明かりの内、起きて立ち上がり、留めていた足を前に出す。今はまだ治っていない無数の傷を、歩む中でいつか全て満開の花に変えて帰ることが出来るように。
お題:透明
5/23/2024, 11:58:02 AM