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カチッ。少しの風にさえ掻き消されてしまいそうな金属音がすると同時に、私はステンレス製の灰皿をスっと押す。

朝焼けの淡い光に彼の整った輪郭がぼんやり受かんでいるのをぼおっと眺めるけれど、彼と私の視線が交差することは決して無い。


__ねえ。もう終わりにしましょ。


朝霧の様な煙たい部屋で、いつも私は彼に言う。

空になり散乱しているセブンスターの箱、会う度に異なる他の女の甘ったるい香水の香り、乱暴な癖に時折魅せるほんの少しの優しさ、蜂蜜みたいなドロドロの甘ったるい声。

私の言葉に彼は決まって蕾が震えるように柔らかく微笑んで私を抱き締める。

嗚呼、また駄目。私はまだ彼の思い通りの傀儡のままにしかなれない。



世界にたった一人、君だけだよなんて、私の琴線に触れるような事言わないで。


『世界に一つだけ』

9/10/2024, 3:38:02 AM