独り言を紡ぐどこかの誰か

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【涙の理由】

泣いている。

涙は無いがいつもと違う。
何かがあった顔。

悲しい顔。

そういうことに気づける目があるのに、
大丈夫?って聞ける勇気が無かった。

手を差し伸べても、悪化した過去しか無かった

だから気付かぬフリをした。
他の人と同じように、傍観者になりきった。

裏は見ずに表だけを見た。

私は耳が良かった。
言うなれば地獄耳だ。

悪いことばかり聞こえる。

誰かをいじめている声も、ヒソヒソと広める噂話も
一語一句漏らさず、全て。

自分が言われているかのようで苦しくなる。
注意しても気味悪がられるだけだ。

見ないことは出来るが、聞こえないフリは無理だ
かと言って耳が悪くなるのは嫌だった。

だからそんな声もかき消すような音楽に手をつけた。

声が消えて、心地の良い音楽が聞こえるのなら
とてもいい。

目も耳も両方悪くして、責任から逃げてきた。
真実から目を背けて、知らないふりをした。

最低だ。

誰かが泣いている、誰かが噂している、
それに気づく才能は、私にはない

見えない、知らない、聞こえない。



また誰かが泣いている。
悲しい顔、いつもと違う顔。
ヒソヒソ噂話。

今日も私はピアノを弾く
聞き心地の悪い、嫌な音楽だ。

逃げた自分に言い聞かせるように
「見えない、知らない、聞こえない……」

学校七不思議
『音楽室から聞こえるピアノ』
『誰も居ないはずの教室の独り言』





この話はフィクションです。
実際の人物とは関係ありません。



9/28/2025, 9:59:50 AM