Acogare

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私が愛した人は、深紅が似合う気の強い女です。
幸之助は手紙を或る男から受け取った。その男は四十くらいでつい三週間前まで幸之助が経営している宿舎に泊まっていた、品のない髭を生やした男だった。幸之助が受け取った手紙は如何にもその男を思わせる粗雑な筆跡であったが、一文だけ妙に丁寧に書かれていた。
幸之助はそれ程親しい会話を交わした事のない男の意外な告白に驚いた。彼に見合わない筆跡や言葉の選びをみるに、この男は心の底から深紅の女を愛していたのだと思った。ふと幸之助はこの男の昨日を思った。彼は三週間前妻を貰ったので京都の方へ引越すらしく、宿舎を出て行った。彼が荷物を最後に取りに来た時に幸之助が見た彼の後ろを付いていた女は新緑の似合う年齢に見合わない愛らしい雰囲気の女だった事を思い出した。
幸之助はただ深紅の女に見放されたか、悲惨な別れを遂げたか分からない下衆の男の叶わなかった恋の苦さと共にその手紙を破って捨てた。
何故なら幸之助は彼とは違い、自分の宿舎に一昨日から泊まっている女に一途な恋をしていたからである。
そして不幸にも彼女もまた深紅が似合う女だったのだ。
幸之助はもう二度と会うこともないだろう男の失恋に無駄に振り回されたくなかった。

3/13/2026, 11:57:59 AM