導線の細かな灯りが、垣根や花壇の縁取りに沿って引かれている。他にだれも出歩かない静かな庭園の夜だった。
「今夜は星も見えませんね」
男がゆったりと首を反らして呟いた。「先程のお話ですが……」
二人は近い距離にありながら、足取りは重く、ここに光さえ差し込めばウエディングロードをともに歩む姿と変わらなかった。男は迷いなく行先を見据え、女は携えた花に視線を落とす。
空は暗雲立ち込めている。互いに数度、口を開きかけては閉じた。
「どうか、お気になさらないでください」
白い石段を下りたところで男が言った。「きっとこれが最期になります」
湖は黒く、なみなみとあった。漕ぎ出したボートに二人は乗っていた。向かい合う相手の輪郭もなぞれない。
明かりが欲しいわ。
女が呟いた。男は笑って、
水面を覗いてご覧なさいと言った。
【君を照らす月】
11/16/2025, 12:23:05 PM