七夕(2023.7.7)
「…ん?」
「お、どした?」
何気なく通り過ぎた廊下の視界の端に、見慣れない緑色が目に留まって、立ち止まる。
プラスチックの笹に、色とりどりの短冊。
「あー、そういえば今日、七夕かぁ」
一緒に歩いていた七海が、納得したような声を上げる。
「七夕ねぇ…」
思わず皮肉げにつぶやいてしまった。
「なんだよ、七夕アンチなのか?いいじゃん、七夕。ロマンがあってさ」
まぁ確かに、リア充同士がいちゃつく日だってのは、癪に障るけども、なんて一人で葛藤している七海を尻目に、短冊に書かれた願い事を読んでみる。
「なになに…お金持ちになりたい、家内安全、合格祈願、彼氏が欲しいです…なんか、欲望の煮凝りって感じだな」
「微妙に嫌な表現するのやめろよ…」
呆れたような、少し引き攣った顔をする七海。
「そもそも、こんなご時世に、短冊に願い事を書いてお星様に叶えてもらいましょう、だなんて笑えると思わないか?」
七海は何か言いたげだが、言葉が上手く出てこない様子だった。だから、構わず言葉を続ける。
「だってさ、そのお星様直々に、この世界をぶち壊しに来てくれるんだぜ?」
本当、最高の皮肉だよな。
そう言うと、やっぱり七海は渋い顔をして、
「お前、本当いい性格してるよな…」
数瞬の後、二人で噴き出した。
教室に置きっぱなしのスマホには、ひっきりなしに隕石到来のニュースの通知が届いている。
俺たちの夏は、今日終わる。
7/7/2023, 1:48:56 PM