薄墨

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この星は、影で覆われている。

起きたらまず、“サンシャイン”を手に取る。
筒状の入れ物に、太陽の光の成分をたっぷり含んだ光の素だ。

それを“サンセット”にセットする。
これはシャワーみたいな見た目をした器具で、サンシャインの中身を丁寧に撹拌して、出来た光を健康的に浴びせてくれる。

この星には、太陽の光は届かない。

100年前までは、この星には太陽の光が眩しく、当たり前のように降り注いでいたらしい。
そして、そんな、太陽の下で進化してきた僕たちの身体は、未だに、太陽の光がなくては、上手く機能しないらしい。

ある日、星の空気の層の上に、影が被さった。
太陽の下で生きるつもりで進化してきた、たくさんの生き物はゆっくりと滅びていった。

そして、太陽の光を要しない、暗闇で生きるさまざまな生き物が、台頭してきた。

しかし、僕たちは変わらなかった。
太陽の下で、環境を作り変える技術という知能を得ていた僕たちの種族は、太陽の光を十分でないにしろ、代用できてしまったのだ。

“サンシャイン”と“サンセット”。
これは僕たちの救世主であり、命の源なのだ。

これを開発、作り出した工場の長は、一瞬にして、この星上の、すべての僕たち種族の、英雄となった。
そして、その長が、僕たちの命を握ることになった。

奴は、この星で全てを手に入れた。
今では、彼の一族による星を私物化した独裁が、続いている。

聞けば、初代、つまりこの太陽の光を開発した彼はもともと、太陽の下では、あまり地位はなかったらしい。
太陽の下で、彼は永遠の命の研究をしていた。
命を伸ばす光の研究をしていた変わり者だったという。
太陽の光の再現も、その副産物だったようだ。

しかし、当たり前のように太陽の下で過ごす世界では、誰も相手にしなかった。
彼は常に孤立した、寂しい研究者だった。

それが覆った。
星が影に覆われて、太陽の光が届かなくなってからだ。
太陽の下では、名誉も富も持たない独りぼっちだった彼は、暗がりでは、誰からも尊敬の目で見られる指導者となったのだ。

しかし、彼は長年の独りぼっちの期間で、卑屈になっていた。
そんな利己的な“みんな”は信用しなかった。
信じたのは、己と己の遺伝子だけだった。

こうして、彼は、偉大なる独裁者一族になったのだ。

…これが、僕の一族に伝わる、我が一族の歴史だ。
僕こそが、第三代目のサンセット工場の長なのだ。

サンセットの取っ手を捻り、作り物の太陽の光を浴びる。
小さな作り物の太陽の下は、眩しくて、暖かくて、そして、孤独だ。

僕らはもはや、この太陽の下で生きていくしかないのだ。

僕は密かに願っている。
太陽の下でなくても生きられる、暗闇に強い僕らの近縁が進化して、僕らを覆してくれることを。
僕らの“進化”を。

僕のおじいちゃんが作った太陽はあまりに小さい。
そして、あまりにひね曲がっている。

僕は、サンシャインを浴びながら、窓を見る。
真っ暗に塗り込められた闇が、外に広がっている。

サンシャインは強く、強く、孤独に輝いていた。

11/25/2024, 9:34:17 PM