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目が覚めると、そこは1Kのボロアパートであった。
最初、私は何が起こったのか、頭が追いつかなかった。
私が寝ていたのは、妻と子の横であって、こんな貧乏フリーター時代の、アパートではないはずだったのだ。
今では私は、今の会社の重役であって、ローンだが家も持っているし、車だってレクサスだ。
だからって、こんな悪夢みたいな出来事が、起こるはずないだろうって、そう思った瞬間、私は理解した。
私は実はしがないフリーターで、妻も子もいない。貰える月給で、家が買えるはずがない。
なぜか理解出来たんだ。これは、カフカの『芋虫』ってことに。
気がついたら、ぼーっとしたまま、アパートの近くのコンビニで、ハンバーグ弁当と缶ビールを買っていた。
夜の武蔵野は、バイクの音がうるさい。
ボロアパートの2階、203号室(角部屋)。
プシュ、ゴクゴクゴク。
「ああ、ビールが美味い……」
これだけは、重役であろうと、フリーターであろうと、なにも変わらない味である。
俺はこれからどうあろうと、生きていく決心を固めた。(我ながら偉い)

7/10/2023, 10:17:01 AM