龍那

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⬛︎星が溢れる

「確かに星みたいね?」
 ノイスは手すりに頬杖を突いてそう言った。長い金髪とスカートのフリルが夜風に揺れる。
「テオが言ったこと、やっと分かった気がする」
「それなら良かった」

 いつだったか、スクランブル交差点で信号を待つ人々を見て「星みたいだよ」と言ったことがあった。
 彼らは一様に手元の小さな端末を光らせ、それに首を垂れている。祈りを捧げているようだとも思った気がするけど、口を突いて出たのが「星」だったのは、彼女が都会の夜空を見上げては「星がないわね」とつぶやいていたからだ。
 その時のノイスが、ピンとこない顔をしてたのが分かったから、こうして駅前の横断歩道がよく見える所に来てみたというわけだ。

 見下ろした夜道に、人がいる。
 彼らの覗き込む端末が、仄かに光っている。
 それが集まり、時折動き、光り、消える。
 周りが明るいから見えにくくはあるけど、そこは実物も変わらないから諦めて欲しい。

「ほら。地上にも思ったより星が溢れてると思わない?」
 俺も道行く人々を見下ろして、地上の明かりに照らされた彼女の横顔に尋ねる。口が少し尖っているのは、考えている証拠だろう。琥珀色の瞳に、車の光が流れて消えたのが見えた。

「まあ。……そう、ね?」
 少し待って返ってきたのは、微妙な肯定だった。
 声色にはまだ微妙に腑に落ちない感じが見え隠れするけど、納得行かない時は頑として認めないから、よくやった方だ。なんて満足していると。
「でも、テオには世界がそんな綺麗に見えてるのね」
 ふわりと、表情が和らいだような声がした。

「えっ、なんか言った?」
「何も言ってないわ」
「でも、なんか聞こえーー」
「言ってないって言ってるでしょ!?」

 なぜかムキになって怒られた。
 俺は「そっか」と頷いて、これ以上の追求をやめる。

 もう、と膨れて地上の星々に視線を戻すノイスの瞳にも、街明かりが星のように煌めいている。
 これも正直に言ったりしたら、きっと更に怒られるのだろう。

 だからこの感想は、手元の星明かりにそっと仕舞っておくことにした。

3/15/2023, 12:36:43 PM