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 昨日、小雨の降る窓辺で、こんなことを話した。
「あじさいの色は、土によって変わるんですよ。ざっくりいうと、酸性の土の場合は青色、アルカリ性だと赤色……といった具合に」
「へえ。じゃあ、紫色のは中性の土だからってことかな?」
「そのとおりです。厳密にはもっと細かく理由があるみたいですが」
 じゃあ白いあじさいはどういう理屈だとか、卵の殻を撒くといつかは真っ赤になるだとか、たわいない話をぽつぽつと。
 今日は朝から強い雨が降っている。昨日のことを思い出しつつも、濡れてしまったズボンの裾にうんざりとする気持ちが勝ってしまう。傘を差してきたのになあ。
「……ん?」
 ふと見たスマホに、起きた時にはなかったメッセージ受信の通知が届いていた。差出人は昨日楽しくおしゃべりをしたあの人。
『おはよう! 面白いあじさい見つけたよ! これは、土の成分がミックスされているってことなのかな?』
 画像が二枚添付されていた。一枚目は本文に合わせてだろう、雨の中でピンクやら水色やら薄紫やらをいっぺんに咲かせたひと株のあじさい。二枚目は、見事な紫色のあじさいの前で自撮りをしている濡れた姿。顔の隣のまあるいパープルが、まるで真横にある頬にキスをしようとしているみたいで、少しドキリとした。
『面白いあじさいですね。どれも素敵です』
 一回だけ深呼吸をしてから、短い返事を打った。スマホを机に放って今度は大きく息を吐く。頭の中が届いた写真でいっぱいに塗り替えられて、ズボンの裾は気にならなくなった。
 雨はまだまだ止みそうにないけれど、今日も一日頑張れそうな気がする。
「……っあ、そうだ……!」
 作業に入る寸前に思い出す。そうだ、あの写真を見て思ったことが、伝え忘れたことがあったんだ。急いで追伸を送らなきゃ。
『追伸、ちゃんと傘を差して! 風邪なんて引かないでくださいね』

【あじさい】

6/13/2023, 1:58:47 PM