tatsumi

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 風で糸が泳ぐ、手袋。赤い毛糸。白い毛糸。冬って、なんでこんなに赤が似合うのかな。
 自分で編んだから少し緩いし、柄も頑張ったけどよれちゃった。でもその不格好な部分がかえって愛しい。
 空に手をかざしながら歩いていたら、背後から背中を叩かれた。
 大地がわたしを追い越していく。地面、凍結してるのに。今はもう降ってないけど、昨日の夜から今朝まで降っていた雪が、まだ街を白く染めているのに。
 マフラーも巻かずに笑ってる。今朝は、耳が緊張するほど寒いのに。強いなあ。元サッカー部だから寒さには慣れてるのかな。
 坂本くんが軽装の大地を見て呆れてる。風邪ひくよって言ってあげてほしい。そこまで言っても、大地はどうせ聞かないんだろうけど。
 高校生活はあと3ヶ月で終わってしまう。3年生でやっと同じクラスになれて、心底嬉しかったのに。いつの間にかお別れが近づいている。
 あっという間だった。
 大地と、前よりは仲良くなれたと思うけど、期待していたほどは仲良くなれなかった。
 麻子はわたしに、バレンタインに勝負しろって言った。でも、勇気が出ない。自分が大地の特別になれるなんて思えない。
 大地が話しかけてくれるたびに、わたしはいっそ今言ってしまおうか、と思う。でもいつも言えない。気持ちを告白してぎこちなくなってしまうくらいなら、このまま、楽しく話せる距離感を維持していたい。
 臆病だなあ、わたし。
 窓の外を雪が落ちていく。また降り始めた。わたしは机に頬杖をついて、白に支配されていく校庭を見る。寒がりだから、冬はあんまり好きじゃない。なんとなく寂しくなるし。遊びに行くのだって大変だし。
 早く帰って家で温まりたかったのに、長引いた委員会で、先生にさらに用事を言いつけられてしまった。
 やっと終わって下駄箱にたどり着いたのに、雪の勢いがますます強くなっているのを見て、がっくりしてしまう。
「はあ」
 誰もいないと思って、ため息を落とした。すると名前を呼ばれた。びっくりして顔を上げると、大地がわたしを見て立っていた。
 もうとっくに帰ったもんだと思ってた。
 大地が見るからに雪を嫌がってるわたしを見て笑った。わたしは言い返した。また笑われた。
 大地の手は寒さで白くなっている。マフラーも手袋もないなんて信じられなくて、見ているだけでこっちが寒くなって、わたしは自分の手袋を大地に貸してあげた。
 サイズは少し大きめに作ったので、大地の手でも十分に温めることができた。大地は温かいと喜んだ。ほら寒かったんじゃん、ってわたしも笑った。
 わたしはマフラーを少し引っ張って、首元をしっかり隠して外を見据えた。大地はわたしの隣に立って、鞄をゴソゴソ探っている。
 飴でもくれるのかな、と期待した。それより、わたしの方こそ、この手袋を大地にあげてしまおうか。でも持って帰られて、不格好さに気づかれたら恥ずかしいな。
 ちらちら見ているわたしに気づいて、大地は仕方ないなあと言った。はてなを浮かべるわたしを置いて、先に外へ立った。
 音が消える雪の中で、バサリと傘が開いた。ほろほろと白が振り落ちていく外で、大地は黒い傘を差して、わたしに入っていけよと言った。
 家まで送ってくれるという大地に甘えて、わたしはその傘に入れてもらった。肩が触れ合って、少し歩きづらくて、静寂の中で、大地の声しか聞こえなくて、緊張した。
 世界が遠ざかる。わたしたちだけしか存在していないみたいだ。大地の声にもどこか硬い響きがある。言いたくて言いたくてしょうがない言葉が、喉まで出かかっている。
 傘は持ってるんだね、とおどけたら、大地が止まった。つられてわたしも立ち止まった。見上げた先にある大地の瞳が、真剣な色を映している。





6/19/2024, 10:29:26 AM