『鋭い眼差し』
⚠︎血が出ます。苦手な人はご注意ください。
薄暗い部屋の中。
僕は、カッターナイフを取り出した。
ゆっくりと刃を出す。
斜めに切れた刃が、窓から差し込む微かな日を受けて、鈍く光った。
僕はそれを、何の躊躇いもなく自分の手首に滑らせた。
切れ味の悪い鉄で、肌を擦るように切る。
数秒経ってから、血液の粒が傷口に浮かんだ。
それはみるみる大きくなり、傷口は赤い線になる。
それでも構わずに、まだ切られていない白い部分に刃を向けた時、
ガチャッとドアが開く音がした。
僕は肩をびくっと震わせる。
湊さんだ。
彼はいつも、ノックもせずに部屋に入ってくる。
案の定、聞こえて来たのは気だるそうな湊さんの声。
「お客様ー、お部屋をお掃除いたしまーす」
彼は定型文のようなそれを口にした後、ちらりとこちらを見やる。
そしてそのまま、固まった。
あー、最悪だ。
湊さんだけには知られたくなかった。
絶対嫌われる。
妙に冷静な自分がいた。
湊さんは僕から目を逸らさずにこちらへ歩み寄る。
近くの救急箱から包帯と消毒液を出すと、何も言わずにすばやく処置を始めた。
僕は血を流したせいか頭がぼーっとして、ただただそれを見つめていた。
手首に丁寧に包帯が巻かれると、湊さんは鋭い眼差しで僕を見る。
今まで見たことがないような、真剣な顔だった。
彼は言葉を選ぶようにしばらく視線を彷徨わせる。
たまに僕と目を合わせて、何か言おうと口を開く。
しかし何も言葉を発せずに、目をふせた。
しばらくその繰り返し。
ふと彼は逸らしていた視線でちらりと僕を見る。
そして、何も言わずに抱きしめた。
ふわっとした暖かい感触が、冷えきった体を包んだ。
僕は彼の肩に頭を預ける。
そのまま、ぽんぽんと頭を撫でられた。
まるで、何も言わなくていい、というように。
ふっと緊張が解けた。
僕は心地よい光に包まれながら、彼の肩で眠りについた。
10/15/2024, 11:20:11 AM