毎日、頭が痛い。部下がちっとも育たねぇ。
いや、全く成長してない訳じゃあ無いが、いつまでもドジな半人前では仕事を割り振るのも一苦労だ。
何でも、やれば慣れる。慣れればできる。…筈だってのに。
女が茶を淹れて持ってきた。
難しいお仕事ですかと尋ねられ、まったくな、と答える。
危険な仕事とでも思ったようで形の良い眉の端が下がるが、その顔も良いなと思った。…疲れてんな。
『奴ら、またガキ共に出し抜かれやがった。』
ああ…、と女が笑うのを見て濃い目の茶を啜る。美味い。
深く息をついて湯呑みを盆に置くと、そのまま自重に任せて板間に寝転んだ。横になると、いよいよ疲労感が体と気分に押し掛かってくる。俺の教え方が悪いのかとか、俺を好かないから教えた事を覚えないのかとか。
何でも出来てしまうから…と女が言う。出来ないという事がよく解らないんでしょうと。
そんな訳あるか。今まさに進退窮まってるってのに。睨んでやると女は口元に袖を当て、うふふと笑う。
この野郎、茶化しやがって。
膝で寄ってきた女の顔が俺を覗き込んだ。その膝で枕になってくれよ、と言いかけて堪える。…なあ、お前が言うより、俺に出来ない事はずっと多いんだぜ。
柔らかい掌が額にあたる。あたたかい、と思ったのは一時で直にその熱は女と俺のどちらのものか判らなくなった。
『…お前の手は、眠くなるな。』
ふふ、と微笑んだ顔を最後に視界はその手に塞がれた。
寝ぐずった子供にするように、女の手が瞼や頬や髪の上を
なぞっていく。
もう、いいか。ここまでされりゃあ、寝ちまっても。
お疲れさまですと囁きながら、お前が柔らかく俺を撫でている。
【子供のように】
10/13/2023, 2:15:39 PM