走馬灯のエンドロールには、1週間も経たずに死んだ祭の金魚を挿し込んで欲しい。
金魚という生物の、美しさと、儚さ。生命の重さ、そして軽さ。
夏の陽の暑さ、冷房の効いたリビングの涼しさ、優しい父母の温かさ、疲れ果てたとき飛び込んだニトリのベッドシーツの冷たさ。
金魚の紅さ、空の青さ、水の白さ、汗の黒さ。
死の苦さ、涙のしょっぱさ、プリンの甘さ、世知辛さ。
『恥の多い生涯を送ってきました。』中学時代、初めてできた彼女が好きだった小説の一節だ。今の俺にぴったりの言葉だった。それでも当時は、「こんな変なもん勧めてくるなよ」なんて笑い飛ばしたものだ。どうしてこんな人生になっちゃったんだろう。俺はこんな形で消えるのか。嫌だなぁ。幸せになりたかったなぁ。
金魚の紅さは、血の紅さとはまるで異なり、どちらかと言えば甘美なりんごあめと同じ色をしていた。俺が死なせた金魚。俺を殺した金魚。優美に泳ぐ魚。食べられないおさかな。きらきらのおさかな。
幼さとは時に残酷であるが、大人もまた残酷である。世の中は残酷である。誰もが皆、加虐的なのである。俺も例外ではない。
残酷な大人と残酷な子供。それならば、俺は残酷な子供でありたい。もう、全ての罪を赦されたい。ねぇ神様、俺に免罪符をくれませんか。甘美な飴の色をした食べられない、美しい魚に会いたいです。
「えへへ、えへへ、えへへ」
「おさかなさん、おさかなさん、ほしいの、ねぇ、とって」
「まっかなのに、きんぎょっておかしいねぇ、ねぇ、かみさま」
七作目「あの日の景色」
祭も終盤にさしかかる頃、まだ金魚はたくさん泳いでいた。並んでいた人々に、おじさんが適当に網ですくって配ってくれた。当時はやけに金魚すくいがやりたかったけど、曖昧には藻だけでじゅうぶん。
7/8/2025, 10:32:04 AM