夕木

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【題:現実逃避】

 なんなんだろう、この空虚感は。


 ベッドの上で一人、チクチクと痛みが主張する頭を回転させる。


 私は一人でいるのが好きだ。だから、友達といえるような人がいなくても平気だった。

 勉強は苦手でも好きでもない。だから、大学の講義やら課題も、なんやかんやこなせていた。

 単純作業は得意だ。お金に困っているわけではないけれど、時間を忘れられるからチェーン店のキッチンバイトは結構気に入っていた。


 でも、3ヶ月ぐらい前から、そんな生活が、だんだん嫌になってきた。


 確か、きっかけは大学のグループワーク。

 四人グループになる時に、女子三人組に入らせてもらった。そこにいる私は、どう考えても“余り”だった。
 彼女らはなんだかとても楽しそうで……ああそうだ、自分の惨めさを、18歳にしてようやく理解したんだ。


 一度自認すればもう止められなかった。


 私と他人の間にあるフィルターが、明確に形を表していった。
 私一人だけが、人間ではない別の種族ではと思えてしまうほど、他人と私はどこか違った。

 話をふられても、受け答えすらできなくなった。声が、枯れてしまった。

 今までの人生で、一人でいることになんの違和感ももたなかった自分が、到底信じられなかった。ある種の黒歴史のように、胸をじわりと、継続的に痛め付けた。


 どんどん他人も、自分も分からなくなる。

 外にいる、孤立した自分に、どうしようもない拒否感や嫌悪感を抱く。


 2ヶ月前から、大学の講義を休みがちになった。その周期は、どんどんと早くなる。

 1ヶ月前、バイトを辞めた。その前の月から遅刻・欠勤が増えてしまっていたから、周りは私が辞めたのを、ポジティブに受け取ってくれたと思う。


 今は、外出自体が嫌になった。大学に行くのも週に一度程度だ。先週は一回も行けなかった。

 有り余った時間は、つまらないSNSを見漁ったり、なにやら大きくてもやもやした問いに、なす術なく頭を抱えることへとつぎ込まれた。


 ある日、「虚無感をなくすには」というタイトルのウェブ記事を見た。

 「現実逃避も大事!自分が少しでも楽しそうだと思えることをやってみよう」と書かれていたので、すがるように実践してみることにした。


 ベッドから出るのも面倒なものなので、スマホがあればできる動画視聴をすることにした。

 前までずっと見ていた、いわゆる『推し』の動画。楽しくなって、笑える動画。

 サイトを開き、その人の動画を2ヶ月ぶりに見てみた。


 笑えなかった。

 つい一年前にはげらげらと笑いながら見ていた動画が、とてもつまらなくなっていた。


――そういえば前の動画に、一人で実況なんて哀れですね、ってコメがきたんだけどさ。
いやいや、ひとり最高でしょ! 気ぃ遣わなくていいしさ!
人間関係で悩むぐらいなら、自由にいきればいいんじゃね!?


 かわりに、発言の一つ一つが胸に突き刺さる。前までは、もっと救われてたはずなのに。


 耐えられなくなって、スマホの電源を切って、布団にくるまる。


 ああ、そうか――好きだったものも、嫌いになってしまったのか。


 暗くて無音な部屋の中、ぼやりと壁を見つめる。


 涙すら、流れなかった。

2/27/2026, 11:43:04 AM