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結婚を約束したあの日、貴方に告白された私は涙を流した。その涙に貴方もつられて、二人で泣き笑いながら帰ったわ。帰り道、手を繋いで、きっとずっと離さないと笑いかけて私に誓った貴方は、いとも簡単に私から離れていってしまった。貴方にとっては造作もない約束で、記憶の奥底にしまい込んでいつの間にか忘れてしまうようなものだったのでしょうね。でも私にとっては、例えば日々の大半を過ごす居間のよく見える所に飾り、何時も眺めて微笑むような、そんな大切なものだった。貴方の温もりが消えた部屋で、私は今日も独り。毎晩貴方を夢に見て、朝を迎えては布団を濡らすの。貴方を失ってから、貴方の大切さを再確認したわ。そして私の心は壊れてしまった。私には貴方が居ないと駄目なのよ。四六時中、嫌でも考えてしまう。貴方は今何をしているのかと。そして何時も、きっと新しい家で新しい妻と愛を囁きあっているのだろうと考えるの。その情景を想像してみては腹を立てて、行き場のない怒りと悲しみを握り締めた拳に込めるのよ。貴方に惚れた私は大馬鹿者だわ。離婚してからも私を縛り付けるなんて、なんて最低な男。だから決めたの。貴方に憎しみを込めて、私が今から新婚をお祝いしに行くわね。待っていて。今日が貴方と私の最期の日となる事にとても幸せに思うわ。
神様、私が今からする事をどうか許して下さい。いいえ、許して貰えなくても構わない。
彼と共に、私を地獄へ堕として下さい。

彼女はギラつく刃物を隠し持って、インターホンに手をかける。不吉な笑みを浮かべて、人生の終わりへと近づいていく。

1209 手を繋いで

12/9/2024, 11:56:20 AM