駄作製造機

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【はなればなれ】

『患者は10代少年と20代男性!互いに頭部損傷意識あり!男性は上腕部粉砕骨折、少年は肋骨折!』

的確な症状を伝えながらストレッチャーを2つ転がしながら救急治療室へと運ぶ。

『元はと言えば兄貴がドライブ行こうって言ったからじゃんか!』

『はあ?!お前もその誘いに乗ったのがいけなかったんだろ!』

救急治療室では、医師が治療に専念している反面、まるでコメディの様な喧嘩が繰り広げられていた。

『あの、落ち着いて、、動くと骨が刺さっちゃう。』

医師や看護師らが彼らを宥めるが、彼らの喧嘩はますますヒートアップしていくばかり。

『兄貴のせいでこんなになったんだ!』

『ふざけんなお前!運転中に話しかけてきたお前も悪いだろ!』

『2人ともいい加減にしなさい!』

とうとう堪忍袋の尾が切れた医師が2人を怒鳴る。

『、、、貴方たちは2人とも重症です。治療をするので静かにしてください。』

2人は少し落ち着き、それでも2人は睨み合いながら治療をされている。

ピーピーピーピーピーピーピーピーピー

突然、心電図の規則正しい波長が水平線になり、看護師たちが慌ただしく動く。

『ぇ、??兄貴?兄貴!!おい!起きろよ!』

心電図がゼロになっていたのは彼の兄。
やがて弟の方も重症ながらに喧嘩をしたのが原因か、突然意識を失い倒れた。

ーー

目を開けると、そこは薄暗く嫌な空気が漂う場所だった。

『ここは、、?俺、、』

状況が理解できず、しばらくフリーズする。

『あ、、そうだ兄貴を!!』

ガサガサ

何処からか音がして慌てて我に帰り、此処を抜け出すために歩き出す。

兄貴を、、此処が地獄なら、抜け出して兄貴の無事を、、。

地面は何故か薔薇の棘で出来ており、歩くたびに尋常じゃない痛みが足を襲う。
それでも、歩き続けた。

しばらく歩けば、後ろから誰かが近づいている事に気づいた。

ザッザッザッザッ
ザッザッザッザッ

俺が歩くたび、何処までもついてくる。
俺は怖くて恐ろしくてスピードを早める。

後ろにはただならぬ気配があり、振り向けなかった。

ズデッ

足がもつれ転び、棘の中に飛び込む。

『ぃぃっ、、』

早く、、早く立たないと、、。

足音の主はすぐそこまで来ており、俺は流石に死を覚悟した。

でも、中々来ない。
痛む足に鞭を打ち、何とか立ち上がり猛スピードで走る。

少し後ろを振り返る。
黒いサタンの様なデカいナニカが、俺の走っていく様を見つめていた。

そいつは、手に銀の指輪をしていた。

ーー

ピッピッピッピッ

規則正しい電子音。
俺は目を覚ました。

そして先ほどの出来事に恐怖する。

逃げられてなかったら、、どうなっていたんだろうか。
頭には包帯が巻かれており、事故に遭い兄貴と一緒に連れて来られたんだと理解する。

『兄貴は?!』

病室に1人。
兄貴は、、いなかった。

ーーー

霊安室。

そこには、安らかに眠る兄貴の顔が。

『兄貴、、兄貴、俺、、ごめんなさい、、ごめんなさい、、俺、、、謝ってない。俺が悪いんだ。俺が、、運転中に腹痛いなんか言ったから、、心配して、、、ごめんなさい、、ごめん、ごめん兄貴、、目開けろよ、、なあ、、、なあ!兄貴!!』

どれほど呼びかけても、うんともすんとも言わない兄貴の亡骸。

生きてるうちに、あの笑顔があるうちに、伝えたいことたくさんあったのに、、。

『兄貴、、あにきぃ、、うぅっ、、』

冷たく、まるで雪の様な兄貴の手に頬を擦り寄らせる。
ふと、違和感を感じた。

手に指輪をはめていた。
いや、これ自体がおかしいわけじゃない。

あの時、おそらく俺が三途の川らしきところにいた時、あのデカいサタンがつけていた指輪が兄貴の手にはめられていた。

俺は咄嗟に自分の左手の薬指に目を向ける。

兄貴とお揃いで買った銀の指輪。
指輪は途中から滲み出てきた涙で霞み、見えなくなった。

『兄貴、、俺を戻そうとしてくれたんだな。最後まで、、嫌われ者でいてくれたんだ、、。ありがとう、、ありがとう、、兄貴、、。』

力強く、冷たい兄貴の手を温めるかの様に、安心させるかの様に、俺は自分の手を重ねた。

2人の手には、指輪がキラリと光っていた。

11/16/2023, 2:19:13 PM