とあるバイトの面接に合格し、
新しい職場で働き始めたC。
バイト先では黒いローブに身を包んだ骸骨の先輩が、
懇切丁寧に仕事内容を教えてくれた。
案内された場所は地の底へと続く洞窟。
さまざまな長さのキャンドルが燃えており、炎の
揺らめきが洞窟内を照らす光景は息を呑むほどだ。
「消えゆくキャンドルを持つ者の命を刈り取る。
それが我らの使命じゃ」
次に向かった先は病院。
そこでは、生命維持装置に繋がれた老人と、
老人の家族が寄り添い、最後の別れを惜しんでいた。
先輩が老人の足元に立つと、
老人は眠るように静かに息を引き取った。
Cも先輩を倣い、人生の終わりを迎える者に
立ち会うことが日課となった。
生まれたばかりの赤子、公園で遊ぶ子ども、
高層ビルの屋上に佇む若者──。
ある日、Cはとある一軒家を訪れた。
そこでは、夫婦が弱った犬に優しく声をかけながら、愛犬の毛並みをそっと撫でていた。
その光景を見た瞬間、Cは人間時代に飼っていた
犬を思い出した。
尻尾を振りながら駆け寄ってきた姿、冷たい身体を
抱きしめたまま泣いた日の記憶。
「犬や猫はどうしてこんなに短い命しか
与えられないのだろうか」
それからCが取った行動は衝動的なものだった。
無期懲役の囚人の長いキャンドルと、
犬の短いキャンドルを密かに取り替えたのだ。
翌日、例の家を再び訪れたCは元気に庭を駆け回る犬と、その姿に喜ぶ夫婦の光景を目にした。
「元気になってよかったねえ」
「まるで奇跡みたいだ」
満足感を覚えながらCが職場に戻ると、
怒りの形相で先輩が待ち構えていた。
「このバカもんが!以前もお前のような我欲のために
掟を破った愚か者がおったわい」
その日、Cはバイトをクビになり、
現在は屍泥処の清掃員として働いている。
時折、キャンドルが無数に並ぶあの神秘的な空間を
思い出しては、Cは淡い懐かしさに浸るのであった。
お題「キャンドル」
11/19/2024, 8:53:23 PM