宵風になりたい

Open App

僕らの夏が終わった。という言葉は甲子園などでよく使われる言葉だろう。そうだとしたら、そもそも夏を掴む機会のなかったものには一生使うことのできない言葉だ。
僕は野球が大好きだったんだ。小中高と続けてきた。でも、学力の関係で入った僕の高校には野球同好会しかなかったのだ。
結局部員は全員で4人しか集まらず、高校3年生の僕は夏を掴む機会もないまま夏を終えた。

野球同好会には僕の他に3年生の部員は1人だけいた。
そいつは野球を高校生で始めた。でも、誰より必死に練習をしていた。
指に豆ができるまでバットを握り、足が筋肉痛で動かなくなるまで守備練習をし、手がグローブ臭くなるまでピッチング練習をした。
そんなに練習をしたのに夏を掴むチャンスも得られない。でもアイツは平気そうに笑って、終わっちゃった。なんてあっけらかんと言った。
僕は悔しくてたまらなかった。アイツも俺も必死に頑張ったのに、なんで。残酷な世の中に嫌気がさす。
いつの間に流れた涙と後悔の言葉をアイツはしっかり受け止めた。

「俺たちは、まだ、青すぎたんだよ。」

初めて見たアイツの目尻の涙を青い風が飛ばした。

7/4/2025, 10:24:56 AM